敦賀の名勝「気比の松原」 福井の風景
夏に来た時には、家族連れや恋人同士、友達同士らしき海水浴客であれほど賑わっていた気比の松原の海水浴場(市営松原海水浴場)も、当然といえば当然のことながら初冬のこの日は人っ子一人おらず、閑散としていました。楽し気な子供たちのはしゃぎ声や大人たちの笑い声も聞こえず、これからやってくる冬の寒さへの身構えと変わりゆく季節の残影、一抹の寂寥の感がありつつも、一方で寒い季節ならではの透明な美しさのようなものがあたりを支配していて、それはそれで中々よいものでした。
世界遺産にもなっている静岡の「三保の松原」、佐賀の「虹の松原」と共に「日本三大松原」にも数えられている「気比の松原」は、敦賀半島の東側の付け根、敦賀市の中心部から見ると北西方向に2~3キロメートルの場所に位置する広さ約34万平方メートル、東京ドーム約7個分のエリアに広がる松林。アカマツとクロマツの木立が約1.5キロメートルに渡って続いており、その数は約17,000本にも及ぶといいます。
この「気比の松原」は古来より景勝地として知られる所で、「吹なびく はた手にまがふ浮雲も はれて行衛や しらさぎの松 雁返舎」「松原の 続くかぎりの 秋の晴 高浜虚子」など、歌人、俳人もその景観を賞賛する言葉を残しているほか、歌川広重が晩年に日本全国の名所を描いた名所図会「六十余州名所図会(ろくじゅうよしゅうめいしょずえ)」にも「越前 敦賀 氣比ノ松原」として描かれています。かの松尾芭蕉も「月の名所」として知られたここ敦賀を訪れた際、月見を楽しみにしていたという記録が残っていますが、雨のために月は見られなかったようで、「名月や 北国日和 定なき」(中秋の名月を楽しみにしていたのに北国の天気というのは変わりやすいものだなぁ・・・)という句を残しています。