月と田沢湖 秋田の風景

月と田沢湖 秋田の風景月と田沢湖 秋田の風景

普段都市部で暮らしている人々にとって、「お月様」や「月の光」といっても、取り立てて「ありがたい」とか「明るい」などと思うことはあまり無いのではないでしょうか。

電球や蛍光灯、もしくは随分と普及してきたLED照明で夜中でも煌々と「暗闇」を照らし出すことができる生活において、いや、そもそも分厚い遮光カーテンを用いて意図的に作り出さなければ「暗闇」そのものに中々出会うことのない現代の日常生活において、月は美しい存在ではあってもその明るさを意識することはあまり無いような気がします。

一方で、自然豊かな地での宿泊、例えばキャンプや山登りなど自然豊かな空間で夜の時間を過ごす際、夜空に月が出ていたりするとその明るさに驚くことがあります。辺りは暗いのに、ヘッドライトを消してもはっきりと周囲が見える。改めてその明るさに驚き、ヘッドライトなしでも歩けることに「ありがたみ」を感じます。さらに暗闇の中で煌々と光る月を見て、ベートーヴェンやドビュッシーの名曲ではありませんが、透明感あふれる音色が聞こえてくるほどの「月の光」の美しさを身をもって知るのです。

10月のある日、田沢湖の湖畔で月に出会った時も、まさにそのような感覚でした。時刻は真夜中過ぎ。周囲は(都会の夜に比べれば)真っ暗な状態です。そんな中、山の稜線から姿を見せた月は周囲を明るく照らし出しました。

車のヘッドライトを消すとほとんど何も見えなかった世界が、「月の光」のおかげで明るくなり、木々や山々や雲のシルエットが美しく浮かび上がって、田沢湖の湖面には「光の道」が描かれています。あまりの美しさにしばし呆然として、息をするのも忘れそうになるほどです。眠気や寒さも吹き飛んで、しばらくの間、幻想的で神秘的なその風景を眺めていました。写真はその後撮影した何枚かの一枚です。澄み切った空気の中、光がさらさらと降ってくるような、泣きたくなるほどの美しい景色。その残響は今でもまだ心の中に響いています。

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